第3章 香久夜の過去
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五条は片手に缶コーラ、もう片方でスマホを弄るふりをしていた。けれど、その目はどこか遠く、思考の奥深くに沈んでいる。さっきまでの柔らかい笑みも、今は影を潜めていた。
ふと、頭の中に浮かぶのは、数時間前に行われた上層部とのやりとり。
『かぐや姫の件、見過ごすわけにはいかない。高専内での呪霊発現など前代未聞。あれは高専の信頼を揺るがす。』
「あれは呪具の劣化が原因です。制御不能は一時的なものです」
『当初より、彼女には秘匿死刑の判決が下っていたはず。それを一存で撤回し、庇護していた責任は――』
「香久夜の処遇は私に一存すると、そうお決めになられたのはつい先日のはずですが。」
『全員が納得したわけではない。現に加茂家や禅院家が正式に“預かり先”として名乗りをあげていた』
(冗談じゃない、あんな連中の手に渡してたら実験のモルモットにされるに決まってる)
『彼女のような“呪力の器”は、御三家のような管理能力のある家で育てるのが妥当だ』
その言葉に五条の眉が動く。
「…呪力の器ね。あの両面宿儺を呪いの王にせしめたと言われる女ですよ。そんな伝説が暴走したとき、誰が彼女を止めるんだ?」
その言葉にカラスのように罵声を浴びせていた上層部は言葉を失う。
「ましてやかぐや姫の記録は噂程度にしか残っていないブラックボックス。何がトリガーで起動されるかもわからない爆弾だ。それをこの場の誰が、制御できると言うんです」
誰も反論しなかった。
なぜなら、彼が“現代最強”だったから。
力で封じられるものなら、彼はもうここにいない。
「…手綱は握っていますので。彼女を止められるのも、使うのも、私しかいないということを、お忘れなきよう。」
そう言って上層部からの呼び出しを後にした。