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呪術回戦ー八月の忌み子ー

第2章 寮の怪異事件




『終わった…。』


伏黒はその場に膝をつき、ぐらりと身体を傾けた。
燃え尽きたような、呪力の残響だけが身体の芯をかすめていく。
だが、そんなことはどうでもよかった。


視線の先にいる――彼女。
香久夜が、瓦礫の上に倒れていた。



「……っ!」



転がるように彼女のもとへ駆け寄る。
細い肩に触れ、顔を覗き込む。

その目は閉じられ、唇に色は少ない。
けれど、かすかに胸が上下していた。


「……生きてる」


伏黒の喉がひくつく。

無意識に、彼女の頬に触れた。
冷たい。
でも、温もりが、かすかに戻ってきている。


「……良かった……」


言葉にならない声が漏れた。
一瞬でも遅れていたら。
五条が来なければ。
自分がもう少し、あの呪霊に飲まれていたら――

考えたくもなかった。

ただ、彼女がここにいる。
それだけで、心が崩れそうになるほど、安堵していた。



「……恵」



背後から、静かな声が落ちてきた。
五条悟。
いつもの余裕は控えめに、伏黒の隣にしゃがみ込む。



「彼女、意識はないけど、問題ない。呪力の流れも整ってるし、肉体も安定してる。……ちゃんと、生きてるよ」


伏黒は頷いた。けれど、目は逸らさず、ずっと彼女を見つめている。


「……そうですか」


言葉はそれだけだった。
けれど、その声には、崩れそうな想いが詰まっていた。

彼女の髪がふわりと揺れる。
落ち葉が、月の光の下、静かに舞っていた。


──この手が、間に合ってよかった。


伏黒恵の胸の奥で、何かがきしんで、そして、確かにほどけていくようだった。




五条は黙って立ち上がり、少し離れた場所に歩き出す。
ふたりの時間を、壊さないように。

月明かりの下。
香久夜の顔は、まるで安らかな夢を見ているようだった。






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