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呪術回戦ー八月の忌み子ー

第2章 寮の怪異事件


「…香久夜を、連れて行きます。」



伏黒は、静かに彼女の身体を抱き上げた。壊れてしまいそうなほど細い肩。
彼女の頭が伏黒の胸に預けられ、すぅすぅと静かな寝息をたてている。まるで、安らかに眠る猫のようだ。



伏黒は、彼女の重さを確かに感じながら、寮へと足を運んだ。月明かりがふたりの影を長く伸ばしていく。

その後ろ姿を、五条悟は少し離れた場所から眺めていた。



「うん、恵にも、生きる意味が与えられたかな」


津美紀が昏睡状態になってから
自傷行為のように繰り返されていた喧嘩も
これを機になくなるかもしれない。

正直、夏休みに入って変に彷徨かられるより、任務としてのそばに置いておけば、二人まとめて監視しやすいと思って始めたことだけど、状況はうまく転がったようだ。



恵が、自分の呪力を超えてでも誰かを守ろうと戦った。それは、ただの情や任務を超えた感情。彼が本当に「誰かのために」怒り、焦り、動いたのは――もしかすると、これが初めてかもしれない。


あの呪霊――“ヨクバ”。
敵としての格はそこまで高くはなかった。
ただ、あまりに狡猾で、あまりに人間の「弱さ」に寄り添っていた。

彼女の心に食らいつき、何度も何度も過去を穿り返して、絶望をなぶるように見せつける。そういうタイプの呪霊だった。



「……性質が悪いにも程があるよ、まったく」



五条はポケットに手を突っ込んだまま、夜空を仰いだ。



香久夜の呪力は、完全にコントロールされていなかった。爆発的に膨れ上がるあの力は、あの子自身の資質によるものだ。ペンダントは、確かに彼女の呪力を受け止めている。


…じゃあ呪霊は天の羽衣に引き寄せられただけか?
彼女の言っていた、熱を持つ、というのは、彼女の感情の暴発によるもの?



恵があれだけ術式を使っても呪力がつきなかったのも気になる。




「うーん、謎は深まるばかりだね。
とりあえずは……二人とも、よく頑張ったよ」



寮の明かりが近づく。
伏黒は、まるで宝物を守るように、香久夜をしっかりと抱きしめたまま。

その背中は、ほんの少しだけ、以前よりも大きく見えた。
五条は、ふっと目を細めた。



「……強くなったね、恵」



満月が沈み
空は薄明るくなっていた。


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