第2章 寮の怪異事件
嵐のような呪力の奔流の中で、伏黒の指先が震えていた。
「っく……!」
全身から呪力が溢れている。限界をとうに越えた式神操作、呪力制御。
けれど――
(なんでだ……俺の呪力が、まだ尽きない……?)
脳裏に浮かぶのは、香久夜の姿。
月の光のように微かで、けれど確かに温かく寄り添うような呪力が、自分の内に差し込んでいる。
(まさか……こいつ、俺に…
そんなこと、可能なのか?)
その瞬間、ヨクバの腕が五条の防壁を突き破りかける。
「っ!」
「恵、ここが勝負どころだよ」
五条が軽く声をかける。
伏黒は深く息を吸った。
「玉犬・渾(こん)――!」
左手を構え、影から白と黒の双犬が飛び出す。
今までになく、研ぎ澄まされた動き。香久夜の呪力が混ざった双犬は、まるで生き物を超えた神獣のよう。
「式神融合、最大出力ッ!」
狗巻の教えを思い出しながら、伏黒は呪力を極限まで絞り出し、双犬を一直線に放つ。
「……喰い破れ!」
ガアアアアアッ!!
黒い閃光が走った。
玉犬・渾が、ヨクバの中心を――
呪いの核を正確に、貫いた。
「……あ」
呪霊の巨体が崩れ落ちる。どろどろと溶けていく中で、残ったのは、黒く濁った呪いの核がひとつ。伏黒がそれを手に取り、ゆっくりと握り潰した。
「祓った」
息を吐いた彼のもとに、香久夜の呪力が静かに寄り添うように流れ込んでいた。五条が肩をすくめながら、戦場の縁に降り立つ。
「……終わった」