第2章 寮の怪異事件
「呪霊・ヨクバ」――
名もなき欲望の呪いは、ついに精神と現実の境界を超えてその本性を露わにする。
幾千もの手足が這い、口が裂け、泣き声のような呻きが辺りを満たす。中心に鎮座するのは、肉塊の王のような巨大な胴体と、幾重にも重なった顔面。正真正銘、1級に近い呪霊だ。
「おいおい、マジでキモいね」
五条が軽く手を振る。
「じゃ、戦闘開始」
彼の目が青く輝いた瞬間、世界がスローモーションになる。
――恵、いける?
「問題ないです」
彼は影から式神を呼び出す。玉犬が唸り、鵺が雷を纏って舞い上がる。
伏黒の一挙一動に、香久夜の淡い呪力が呼応するように光を放ち、力が澱まず流れていく。
ドッ
「影法術・鵺!」
伏黒の指示と共に雷光がヨクバの身体を貫く。が――
それでも這い寄る腕は止まらない。まるで死の意志そのもの。
「影法術・蟲影繰」
新たな影が地面を這い、ヨクバの動きを拘束する。
「チッ……なぜだ……なぜ“あの女”の呪力がまだ流れている……!」
ヨクバが絶叫する。伏黒はその言葉の意味が理解できなかった。
その中心で、少女は微かにまぶたを動かす。
(…まさか)