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呪術回戦ー八月の忌み子ー

第2章 寮の怪異事件



「なぜ……崩れない……!」

精神世界の檻がひび割れ、空が血のような色に染まる。

ヨクバの仮面がひび割れ、潰れた肉と蠢く腕がその下から現れる。
醜悪な本性が、香久夜と伏黒を覆い尽くそうと伸びる。



「お前は、生きる意味なんか見出せないまま、砕けていく運命だったはずなのに……!」



精神の檻の外で、伏黒は無言のまま構えていた。
足元には、助けを乞い、意識を失った香久夜の体。
目は開いていないが、確かに彼女は生きている。



「香久夜。……もう、いい。お前は生きてる。それだけで十分だ」


静かに言いながら、拳を握る。

そのとき――
伏黒の呪力が、膨れ上がる。


「……っ?」


自身の力が、明らかに一段階、底上げされた感覚。
膨張する呪力の核に、別の“色”が混ざっている。柔らかく、透き通った月光のような呪力。



伏黒が視線を落とす。
彼女の呼吸が、少しだけ整い、微かに唇が動いていた。


「めぐみ、くん…」


その言葉は彼を戦わせるために、自らの命を通して力を繋ぐように、伏黒に力を与えた。


「お前……」
伏黒の胸に、何かが灯る。



「……助ける」


その瞬間、空間が揺れた。


「ヨクバとはこりゃ厄介なのを引き寄せたね」


五条悟が空間を割って降りてきた。


「悪夢、残しておくと寝覚めが悪いからねぇ」


その声に、世界が一瞬で切り裂かれる。
ヨクバが吠え、精神世界ごと現実に滲み出て、暴走を始める。

無数の手が、地を這い、伏黒と香久夜に伸びる。
だが伏黒の影が、それを裂いた。


「……いける」


呟いた伏黒の声は、今までよりも力強く、静かな闘志を宿していた。香久夜の存在が自分を支えている――その確信が、彼を前に進ませる。

五条は微笑んだまま、一歩前に出る。


「さ、恵。彼女を頼んだよ。俺がこっちを抑える」

「サポート、期待してますよ」


伏黒が短く返し、香久夜を背負って跳躍した。

五条が指を鳴らす。

「じゃ、ちょっと派手に――やっちゃおっか」



ヨクバの暴走が、呪霊の本性を剥き出しにする。
現実と精神が混じるその場で、伏黒の呪力が静かに燃え上がる。

その中心に、眠る少女の命の光が、まだ脈打っていた――
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