第2章 寮の怪異事件
(……ここは、どこ……?)
静寂の中、香久夜の足音だけが響く。
無数の鏡のような水面が広がる空間。ただひたすらに美しく、
天も地もなく、ただ、自分が立っているという感覚だけがある。
彼女の足元に、影のようなものがゆらりと現れる。
それは、音もなくすり寄ってきて、彼女のすぐ背後で囁いた。
「ずっと探していたよ」
香久夜はびくりと肩を震わせ、振り向いた。
けれど、そこには形の定まらない何かしかいない。
黒いもや。声だけがくっきりと響く。
「君のことを、“喰って”しまいたくてたまらなかったんだ」
「……誰?」
「喰う者。君を理解できる、唯一の存在。
君がどんなに人間らしくあろうとしても、その呪力は“異物”だ。
──他の誰も、君を抱きしめられやしない」
「……っ」
呪霊の声は、香久夜の背中を撫でるように響いた。
甘く、優しいようでいて、内側からぞわりと這い上がる不快感。
「知ってるんだろう?
君の存在自体が、“呪いの温床”になってるってこと」
香久夜の瞳が揺れる。
自分のせいで、誰かが傷つく。
それが、怖くて、誰とも関わりたくなくて。
でも。
「だからって……」