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呪術回戦ー八月の忌み子ー

第9章 かぐや姫の物語



五条の手を素っ気なく振り払いながら、恵はチッと小さく舌を打った。

(……ほんと、どこまでもお見通しかよ)

額に残るじんじんとした痛みと、雑になで回された頭の感覚。居心地の悪さに身を捩りたくなるのは、五条に子供扱いされたからだけではない。

五条をただの圧倒的な最強であり、香久夜を自分から奪い去っていく身勝手な存在だと思い込もうとしていた。そうやって相手を悪者に仕立て上げなければ、自分の惨めさやガキみたいな焦燥感に耐えきれなかったからだ。


だが、五条はそんな恵の浅はかなプライドも、傷ついてぐちゃぐちゃになった心も、全部お見通しだったのだ。あえてデコピン一発でその場を茶化し、無様な絶望を力づくで叩き割り、立ち直るための足場を組み直してくれた。


自分が勝手に背負い込んで空回っていた焦りを、圧倒的な余裕で受け止め、叩き潰し、その上で「強くなれ」と背中を押してくる。その教官としての底知れない懐の深さが、今の恵には何よりも悔しく、そしてどこまでも居心地が悪かった。


「…解ってますよ」


恵は顔を背け、掠れた声で呟くのが精一杯だった。

五条はそんな恵の反応に満足したようにくすりと笑うと、すっと立ち上がり、隣で佇んでいた七海へと視線を向けた。


「そういうわけだからさ、七海。恵は高専に連れて帰って僕がバチバチに鍛え直すよ。…の方は頼んだからね」

「ええ、承知しました」


七海は静かに頷くと、ソファの上で膝を抱えるようにして固まっている香久夜の前に歩み寄り、その場に静かに膝を曲げた。


「……香久夜さん」
「……っ」


びくっと肩を跳ね上がらせた香久夜の瞳は、少し潤んで、誰のことも映さなかった。

まだ自分という「毒」に対する激しい恐怖と罪悪感が色濃く残っている。七海はそんな彼女に静かで揺るぎない声をかけた。


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