第9章 かぐや姫の物語
「じゃあ、どうしろって言うんですか!」
恵の声が絞り出されるように跳ね上がった。
「俺が弱いままで、にだけ苦しい思いをさせろって言うんですか!? 五条先生に全部任せて、俺はただ指を咥えて見ていろと!?」
雨の中、恵の感情が爆発する。
この数週間、五条がいないことは、恵にとっては少し不安で、でも香久夜を独り占めできることは、どうしても嬉しい事実だった。
そんな幼稚な考えを認めたくはなかったけれど、七海の言葉に恵はつい感情を露わにしてしまう。
ーー香久夜を愛しているからこそ、彼女の「呪い」を自分が引き受けたい。五条に彼女を預けることへの激しい恐怖と屈辱。
そんな恵の叫びを、七海は逃げることなく、ただ真っ直ぐに受け止めた。
取り乱す恵に対し、七海は怒ることも、呆れることもせず、ただ静かにその首元へ手を伸ばすと、ポンと重みのある手を肩に置いた。
「…泣き言を言えと言っているのです」
「え…、」
「頼りなさいと言っているのです。私や、周囲の大人に」
七海の包み込むような、けれど揺るぎない声が恵の胸に響く。
「一人で抱え込み、自らを破滅に追い込むことが『愛』ではありません。あなたはまだ子供だ。無力さを噛み締めることも、誰かに縋ることも、今のあなたに許された当然の権利です」
七海は肩の手をキュッと少し強く握り、目線を恵と合わせた。
「私にできるのは、あなたが自滅する前に引き留めることだけです。
…行きましょう。一度屋敷へ戻り、五条さんが何を進めているのか、確認します」
導く者としての七海の言葉に、恵はただ雨に濡れながら、ただ、その背中について行くことしかできなかった。