第9章 かぐや姫の物語
「せ、せんせ…私、どうしたら、いいの」
涙で滲む瞳で縋るように見上げてくる香久夜を、五条は目隠しの奥で見つめていた。
かぐや姫の能力の証明が目の前でなされていることに、いささか興奮を覚えていた五条であったが、香久夜にはそれが恐ろしく写っていることが、表情から見てとれた。
(…無理もないか。)
彼女が自分をどう思っていて、恵への想いにどれほど純粋に胸を痛めているか。そして今、己の出自と呪いの重さに押し潰されそうになっているか。この2ヶ月、ずっと近くで香久夜を見てきた五条はよくわかった。
彼女の瞳からこぼれ落ちる涙を、五条は大きな親指でそっと拭う。
「どうしたらいいか、なんて決まってるじゃん」
その声は驚くほど優しく、そして圧倒的な自信に満ちていた。
…もう一度、僕が指針を示せばいい。
「僕を頼ればいいんだよ。全部、僕に預けちゃえばいい」
五条は彼女の華奢な肩を抱き寄せ、その耳元に甘く、逃げ場をなくすように囁いた。
「恵を守りたいでしょ? 恵を壊したくないよね? だったら、僕という“逃げ場”を使いなよ。恵に流れそうになる呪力を、僕が全部受け止めてあげる。君がどれだけ恵を想っても、僕がここにいれば恵は壊れないってことだ」
香久夜の体が小さく跳ねる。
五条の六眼には、香久夜の体内で渦巻く途方もない呪力と、それが繊細な糸となって恵へ、そして今こうして触れ合っている自分へと注ぎ込まれている光景が克明に見えていた。
(呪印が結ばれた時から、恵のキャパオーバーなんてわかってたことだ。僕の役目は単純。)
かつて宿儺という絶大なる器を完成させた、一千年前の呪い。
だが、今の目の前にいる彼女はただの恋する少女で、己の力に恐怖している。
「大丈夫。君が誰を愛していようと、どんな呪いを背負っていようと、僕が全部肯定してあげる。…君の味方でいてあげるよ」
「……っ、」
「だから、先生に委ねて」
五条は微笑みながら、断る隙すら与えずに再び香久夜の唇を塞いだ。
拒絶の選択肢など、最初から与えてはいない。
すべてを見通す六眼の持ち主であり、現代最強の術師である彼だけが差し伸べられる、甘く残酷な救済。
すべてを解き明かし、すべてを受け止める最強の掌の上で、二人の運命は静かに絡み取られていく。