第9章 かぐや姫の物語
宿儺の居場所など誰にも分からない。文を届けてくれる者も、ましてや、汚れた呪術を行う彼を探してくれる者もいなかったのだ。
かぐやにできたのは、ただ、彼のために仕立てた綺麗な着物を身にまとい、来ぬ人を永遠のように待ち続けることだけだった。
そして、残酷な運命が彼女を追い詰める。
かぐやの意向など完全に無視され、帝との婚約が無理やりに決められたのだ。どれほど拒絶しようとも、弱き女の抗いなど何の力も持たない。義父は権力の頂点に立てる快楽に溺れ、連日のように豪勢な宴を張り、都中にその喜びを誇示していた。
(……私は、やはり弱いままだった)
どれほど気高さを装おうと、強気な言葉を吐こうと、あの男が言った通り、自分は何も変えられない「弱い女」なのだと、かぐやは絶望の淵で己の無力を噛み締めていた。
逃れられぬまま迎えた、帝の初めての対面。そして、契りを交わすことが定められた満月の夜。
初めて見たその男の顔は、ひどく醜く、身にまとう最高峰の着物が、より一層歪にそれを浮かび上がらせていた。
(ここで、私の人生も、終わりにしよう。ーー様に潔白を誓い、私はここでーー)
月が中天に昇り、雲の隙間から青白い光が彼女の瞳を刺したその時。
——天地を揺るがすような轟音が屋敷を破砕した。
悲鳴と怒号。宴は一瞬で大混乱に陥った。
崩れ去る木造の隙間、かぐや姫が自死の覚悟をした部屋に降り立ったのは。
「——様。」
かぐやの唇からあふれ出たのは、密かに恋文にしたため続けた愛しい男の名。
しかし、煙の向こうから歩み出てきた男の姿に、かぐやは息をのんだ。
そこにいたのは、かつて自分を救った人間の術師ではなかった。
肥大化した筋骨、倍に増えた腕、そして二つの顔に刻まれた四つの異形なる目。絶対的な死と暴力を体現したような災厄の姿——。
「久しぶりだな、かぐや。」