第9章 かぐや姫の物語
その日から、彼女はまるで狂ったように、彼への溢れ出る想いを文にしたため始めた。
都の男たちの求婚には目もくれず、ただ一人の男へ宛てて筆を走らせる日々。
そして、彼が気まぐれに置いていったあの小さな石。それを肌身離さず大切に抱いていたある日、いつものように放たれた義母の暴力に、ふと違和感を覚えた。
——痛みを感じない。
それどころか、叩かれた肌に刻まれたはずの傷や薄暗い痣が、まるで幻であったかのように、みるみるうちに綺麗な皮膚へと消えていくではないか。
傷がつき、それがその場で消え失せる奇怪な光景を目の当たりにした義母は、顔を蒼白にして後ずさった。
「……ひッ……化け物……!」
気味悪がった義母はそれ以来暴力をやめ、かぐやに近づくことすら避けるようになった。
自分を虐げようとする者すら恐怖で遠ざけたその石を、かぐやは愛おしく胸に抱きしめた。
己を守り、心を奪い去ったあの男の熱を宿す石。かぐやはその温もりに触れながら、いっそう強く、狂おしいほどに宿儺へと思いを馳せるのだった。
しかし、そんな日々は長くは続かなかった。