• 小
  • 中
  • 大
  • テキストサイズ

呪術回戦ー八月の忌み子ー

第9章 かぐや姫の物語


宿儺は拾い上げた石に自身の呪力を通すと、それをかぐやの傷口になぞるように滑らせた。


反転術式による生の領域の操作。


じんと温かい熱が走り、次の瞬間には、かぐやの肌を苛んでいた傷も痣も、跡形もなく消え去っていた。驚愕に目を見開くかぐやに対し、宿儺は小石をポイとかぐや姫の胸元に投げ捨て、心底呆れたように鼻で笑った。


「都一の勝ち気な姫と聞いて来てみれば……己を痛めつける奴らの一人すら殺せぬ、ただの弱い女か」


——弱い女。


生まれてこの方、男たちから「美しき宝」「神の如き姫」と崇め奉られ、蝶よ花よと扱われてきたかぐやにとって、そんな風に面と向かって言い放たれたのは生まれて初めてだった。


目の前の男は、自分の美貌に1ミリも狂っていない。自分を欲望の対象としてではなく、ただの「弱者」として切り捨て、見下している。


その凶暴で、圧倒的で、あまりにも強烈な言葉が叩きつけられた瞬間。
かぐやの胸の奥で、カチリと何かが弾けた。


(……あぁ)


イライラと荒んでいた心が、一瞬でその男の存在で塗りつぶされていく。



恐怖でも怒りでもない。胸を突いたのは、雷に打たれたかのような、激しく、暴力的なまでの恋心だった。


「曲者だ! 姫様をお守りしろ!」


遅れて駆けつけてきた屋敷の武士や術師たちが、竹槍や刀を手に宿儺を取り囲む。宿儺は鬱陶しそうに舌打ちをすると、「興が削げた」とばかりに屋敷を後にしようとする。


「待って…!名前は、!」


彼が踵を返し屋敷を去る瞬間。

「荒魂の、ーーーだ。」

彼は自分の名を呟き、瓦の屋根を壊し、夜の闇へと消えていった。


静まり返った部屋。
破られた着物の袖と、傷ひとつなく滑らかになった腕を抱え、かぐやはその場にへたり込んだ。
心臓が、破裂しそうなほど脈打っている。


「……ーー…様」
/ 200ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp