第9章 かぐや姫の物語
「……どいつもこいつも、薄汚くて反吐が出る」
誰もいない部屋で、かぐやは膝を抱え、擦り傷の痛む肌を叩くように着物を強く引き寄せた。
この都の男たちに、自分の心を動かせる者など一人もいない。
そう高を括っていた。
あの日、あの男が屋敷に押し入ってくるまでは。
その男は、門番を薙ぎ払い、静まり返った屋敷の庭を堂々と踏み荒らして現れた。
後に、異形の呪術師としてその名を裏社会に轟かせる男—両面宿儺。
当時の彼は、まだ四つの腕も二つの顔も持たぬ、一人の「人間」の姿をしていた。しかし、羽織の隙間から覗く隆々とした肉体は岩のように硬く強靭で、浮き出た筋躯には荒々しい生命力がみなぎっている。
何より、その奥底から湧き出るような凶暴な強さを秘めた瞳は、射抜かれた者を射殺すほどの圧迫感を放っていた。
「噂の美人がどんな面をしているのか拝みに来た」という酷く軽薄で強引な理由だけで、彼は警護など存在しないかのようにかぐやの部屋へと上がり込んできたのだった。