第8章 姫の呪い
朝日が格子窓から差し込み、静まり返った隠れ家の寝室を優しく照らしていた。
ふわりと漂うのは、昨夜の密やかな熱の余韻と、綺麗に同調し合って落ち着いた甘く澄んだ空気。
香久夜がゆっくりと目を覚ますと、すぐ目の前に伏黒恵の寝顔があった。
前髪の隙間から覗く長いまつ毛を少し揺らしながら、規則正しい寝息を立てて眠っている。けれど、その腕はしっかりと香久夜の腰を抱き寄せており、絶対に離さないと言わんばかりの確かな力が込められていた。
香久夜は、胸の奥からこみ上げてくる温かい感覚にそっと目を細めた。
幸せって、こういう感情のことを言うのかもしれない。
前回の満月の夜——あの嵐のような夜が明けた時、目を覚ましたのは五条のすぐ傍らだった。
あの時の朝を覆っていたのは、己の呪力に振り回されたことへの深い情けなさと、取り返しのつかないことをしてしまったという重い罪悪感、そして冷たい不条理への絶望だけだった。
けれど、今朝の感覚はそれとはまるで違っていた。
胸を満たしているのは、恐れでも罪悪感でもない。お互いの想いを交わし合い、心も体も心底から満たされたという、どこまでも静かで満ち足りた幸せだった。
……恵くん。
触れ合う肌のあちこちから、静かで柔らかな愛おしさがじんわりと伝わってくる。
香久夜がそっと手を伸ばし、彼の柔らかい黒髪に触れようとした瞬間、恵の長いまつ毛がピクリと揺れた。
「……ん……」
ゆっくりと開かれた瞳。
まだ眠気眼の恵は、目の前にいる香久夜の顔をじっと見つめると、昨夜の記憶が途端に鮮明に蘇ったのか、みるみるうちに耳の先端まで真っ赤に染まっていった。