第8章 姫の呪い
「っ……あ、おはよう、ハル」
「ふふ、おはよう、恵くん」
昨夜、胸を打つような切なさで「好きだ」と何度も囁いてくれた声を思い出し、香久夜も照れくさそうに笑う。
その笑顔に、恵は片手で顔を覆いながらも、抱きかかえていた腕の力を緩めるどころか、さらに香久夜の身体を自分の方へとそっと引き寄せた。
「……身体、痛くないか?」
「えっ、あ、うん!大丈夫だよ」
「そっか、昨日は、その…不恰好なとこ見せて、悪かった」
照れくさそうに吐き出された低い声。
昨夜、感動で手を震わせていたことや、溢れ出す感情を隠しもせずに想いを伝えてくれたことを思い出しているのだろう。
香久夜は首を小さく横に振ると、彼の胸元にそっと額を押し当てた。
「ううん……嬉しかった。恵くんの本当の気持ち、聞かせてくれて……すごく、嬉しかったよ」
「〜〜〜っ!」
香久夜のまっすぐな言葉に、恵は堪り兼ねたように深く息を吐くと、彼女の身体を優しく抱きすくめ、その頭頂部にそっと唇を落とした。
「…もう、どこにも行くなよ。ずっと、俺の隣にいろ」
「うん。ずっと。ずーっと!恵くんの隣にいるね」
そういって、恵の背中に香久夜は腕を回した。
お互いを固く抱きしめ合うその腕の中に、確かな幸せと未来があると、香久夜は疑わなかった。
——この穏やかな朝日の中で、その誓いを自ら破ることになる未来が訪れるなど、彼女はまだ、知る由もなかった。