第8章 姫の呪い
(……っ、もう無理だ)
理性がぷつりと切れた。
「……恵、く……んあっ!?」
俺は香久夜の華奢な身体を勢いよく抱きしめ、そのまま畳の上へと押し倒した。
重なる体温。左手で服の中に手を入れる。手のひらに触れるすべらかな肌の感触に、頭がどうにかなりそうになる。
いつもどおり、「ダメだよ」「熱が出ちゃう」と小さく抵抗して身体を縮こまらせられれば、止められたはずだった。
けれど——
「……っ」
香久夜の手が、俺の背中にそっと回された。
密着した身体から伝わってくるのは、拒絶の硬さではない。俺の体温を愛おしそうに受け入れ、自分から頼るように寄り添ってくる、温かく甘い感触。
(え、受け入れられてる…?)
その事実に気づいた瞬間、背筋に痺れるような衝撃が走った。
ここ最近、弱った香久夜の心の隙間に入り込むように、自分のペースに巻き込んできた。罪悪感なんて感じてほしくなくて、俺がどれだけお前を求めてるのか、分からせてやりたかった。
それが、今、彼女の中で、俺という存在が「呪ってしまった相手」ではなくなったことが分かったような気がした。
その愛おしさに脳が焼き切れそうになり、これ以上触れたら本当に最後まで歯止めが効かなくなりそうな己の情動が恐ろしかった。
「…っ、風呂、入ってくる。もう寝ろ。」
俺は弾かれたように香久夜の上から身体を離すと、荒い息を整えながら立ち上がった。
「え、 恵、くん…?」
畳の上に残された香久夜は、乱れた服の袖を治しながら、ぽかんとした顔で俺を見上げていた。
「ね…寝る前の『チェック』、しないの…?」
「ッ……!?」
少し上目遣いに、照れと微かな期待の混ざった瞳で俺を見つめてくる。
(…冗談だろ、おい)
そんな顔で、そんな言葉を言われたら、どうなるか分かって言っているのか。
七海の言葉も、理性のタガも、一瞬で吹き飛びそうになる。
心臓が破裂しそうなほど跳ね上がり、俺は引っ張られた袖を少し受け入れ、首と髪の間に手を入れ、チュッと、軽くキスをした。
「先、寝てろ。」
これ以上一緒にいると、自分が何をしでかすか、分からなかなりそうだった。