第8章 姫の呪い
「俺はいつでも呼べるわけじゃねぇだろ」
「え…?」
「式神ばっかり構ってねぇで、俺を見ろって言ってんの」
至近距離で見下ろしてくる彼の瞳は、どこか不満げで、けれどどこまでも真っ直ぐに私の反応を求めていた。
無愛想な言葉の裏にある甘い求愛に、胸の奥がぎゅっと締め付けられ、心臓が跳ね上がる。
(きょ、境界線…線の、引き方……っ)
昼間、七海さんに言われた言葉が頭をよぎる。
拒絶しようと、小さく彼の胸を押し返そうとした。けれど——目の前の恵くんの表情はどこか寂しそうで、子供みたいに意地になっていて。
(駄目だ、拒絶なんて、できるはずないっ)
昼間の決心なんて一瞬で吹き飛び、私は彼を求めずにはいられない自分に抗えなかった。
おずおずと伸ばした華奢な手のひらが、恵の硬い黒髪に触れる。
「あ、恵くんの髪、見た目より、ずっと柔らかい……」
拙い手つきで、ポンポンとあやされるように頭を撫でる。
すると、恵くんの瞳が微かに細められ、眉間に寄せられていた皺が解けていく。胸の奥に溜まっていた彼の不機嫌が、甘い熱へと溶けていくのが分かった。
「ふふ、かわいい」
つい口から漏れてしまった私の呟きに、恵くんの肩がピクッと跳ねる。
だが、その穏やかな空気も一瞬のことだった。
膝立ちで恵くんの頭を包んでいると、彼の視線が、どこか温度を変えて低く落ちていく。
お風呂上がりの浴衣から覗く私の太もも、早くなる鼓動に合わせて上下する胸元へ、上がっていった。