第8章 姫の呪い
「勘違いしないでいただきたいのですが、私はあなたを責めているわけではありません」
そう言って、七海さんは大きな手を伸ばすと、私の頭の上にそっと乗せた。
ぽん、と大きな手のひらの温もりが頭頂部に伝わる。恵くんの熱く強引な触れ方とは違う、静かで包み込むような、圧倒的な安心感を与える大人の手。
「あなたは…あまりにも素直で、無防備すぎます。もう少しご自分の価値と、無自覚な危うさを自覚してください」
「え……? 七海、さん……?」
ちょうどその時——ガラリと障子が開き、風に当たっていた恵くんが部屋に戻ってきた。
「……何してんすか」
恵くんの低い声には、隠しきれない警戒と苛立ちが混ざっていた。彼の視線は、私の頭に乗せられた七海さんの大きな手へ一直線に向けられている。
七海さんは焦る様子もなく、むしろ恵くんの視線を正面から受け止めながら、私の髪を慈しむように一撫でしてから、
ゆっくりと手を離した。
そして、恵くんの横を通り過ぎざま、その肩をポンと叩く。
「伏黒くんも。あんまり羽目を外さないように」
「っ……」
恵くんがうっすらと息を呑み、苦々しい表情で黙り込んだ。
七海さんのその言葉と仕草が、ただの「指導」ではなく、恵くんが夜な夜な私に何をしているかをすべて見抜いた上での『大人からの牽制』なのだと、彼にだけ正確に伝わった瞬間だった。
「では、今日は私はこれで」
静かに隠れ家を後にする七海さんを見送りながら、私は恵くんのただならぬ無言の圧に、いよいよどうしていいか分からなくなっていた。