第8章 姫の呪い
これまでは少し離して敷かれていた二つの布団。けれど今では、恵くんの腕の中にすっぽりと収まり、お腹を抱き抱えられるような形で一つの布団で眠るのが「当たり前」になってしまった。
「め、恵くん、近すぎるよ…っ!」
「黙って寝ろ」
……そう言うくせに、自分の吐息を容赦なく私のうなじに吹きかけてくる。
熱い吐息が首筋をかすめるたび、ぞくぞくと背筋に甘い痺れが走り、到底眠れるはずもない。
隣でスースーと規則正しい寝息を立て始め、すっかり眠りに落ちてしまった恵くん。
けれど、私のお腹をぎゅっと抱え込んでいる彼の腕の力は、眠っていても少しも弱まることがなかった。
「……っ……ん」
まどろみの中で、恵くんの身体がかすかに動く。
彼の綺麗で骨ばった長い指先が、無意識に私の腰や脇腹を撫で下ろし、服の隙間から肌へと沈み込んでいく。
(〜〜〜〜っ!)
指先が肌に触れるたび、胸の奥が甘く跳ね上がり、呼吸が浅くなる。逃げ場のない熱さに、お腹の辺りがキュンと締め付けられていた。
私は耐えるように静かに膝の内側を擦り合わせた。
「っ、」
呼吸が荒くなって、左手が自分の下半身に伸びてしまう。
そのとき。
「…………」
「っ、!」
不意に、耳元で低く名前を呼ばれて心臓が止まりそうになった。
動きを止めて、恵の様子を伺う。けれど、彼は目を閉じたまま。
眠りの中で私を呼んだのだと気づいても、胸の動悸は一向に収まってくれなかった。
まだ、寝言で名前を呼ばれることすら慣れないのに。
ーーそうして一晩中、彼の体温と心音に翻弄され、ほとんど眠れないまま迎えた朝。
「……ん……おはよ」
少し擦れた低い声。
まだ眠気眼の恵くんが、まるで赤ちゃんのようにゆっくりと目を開け、私をじっと見つめてくる。
無防備な顔と、朝一番の至近距離での微笑み。
毎朝毎朝、彼の一挙一動に私の心拍数は限界まで跳ね上がらされていた。