第8章 姫の呪い
……さて
二人のやり取りを観察しながら、七海はふと、頭の隅に浮かんだ素朴な、けれど術師としての無機質な疑問を反芻した。
彼女のあらゆる体液が媒介となるのならば——日々の風呂や、洗髪の際はどうなっているのか。
脱落した髪の毛、汗や皮脂が溶け込んだ排水管の奥、あるいは生活廃棄物。それらはどこまで「餌」としての威力を保ち、どこでただの物質へと中和されるのか。
……まあ、そこまで首を突っ込むのは私の仕事ではありませんね
専門的な構造解明は、今頃世界中の文献を引っ掻き回している五条悟の領分だ。
あの男が国内外でどれほどの古代文献を漁り、どのような答えを持ち帰ってくるのか。
自分がやるべきなのは、目の前で甘い熱に浮かされている少年少女を、破滅させないよう現実の日常に繋ぎ止めることだけ。
七海は静かにため息をつくと、冷めかけたお茶に手を伸ばし、思考を「今日の指導計画」へと切り替えた。