第7章 葛藤
「……戦闘のたびに、キスしてセックスさせるわけには、いかないだろ。」
…最悪な形で現実となった。
思わず眉根を寄せた七海に、五条はどこまでも現実的で、かつ残酷な事実を提示する。
身体的な接触や性的な『搾取』を伴わなければ力を発揮できないなど、到底許容できるものではない。
「……随分と。ますます荷が重い。」
「たしかに、呪具を使わせたり、簡易術式を覚えさせるのも手だ。ただ、彼女が呪力を本当の意味で自分のものにして、呪力を与える相手を取捨選択できたら、反転術式に並ぶ、いやそれ以上の力になる。」
「だから1ヶ月。次の満月までに日本中、いや世界中の文献を漁ってかぐや姫について調べ上げる。それまで、彼女の人間としての足場を固める指導者になってほしい。」
——彼女が自分の感情をコントロールできるように。呪術界以外の場所で、自信をつけれるように。
「僕が信用してるのは、お前なんだ。」
「…随分な脅迫だ。」
七海は呆れたように息を吐き出すと、冷めきったコーヒーカップへと視線を落とした。
五条の提示した仮説の狂気と、その少女が背負わされている呪いの重さ。理性的であればあるほど、その責務の惨状に頭が痛む。
だが——目の前の最強の術師が、これほどまでに一人の幼い少女を「道具」としてではなく、「守るべき人間」として扱おうと必死になっていることもまた、事実だった。
もし自分が拒絶すれば、彼女は上層部の都合で実験台にされるか、最悪の場合、呪詛師や呪霊に奪われ搾取されるだけの存在になるだろう。
脱サラしてまでこの理不尽な呪術界へ戻ってきたのは、何のためだったか。
七海は静かに深く溜め息を吐くと、胸ポケットから手帳を取り出し、眼鏡の位置をゆっくりと直した。
「……ハァ。相変わらず、あなたのアプローチは頭が痛い。」