第7章 葛藤
『彼女の呪力の本質は、餌』
呪術師なら誰でも知っている、五条悟の存在と並ぶほどの伝説級の呪詛師、かぐや姫の唯一の能力の噂。
「…そう。あの両面宿儺を呪いの王とせしめたのがかぐや姫だと言われた理由は、彼女が自分の呪力を人に与えれたことに起因する。これは、まぁ存在が存在だから伝説程度の話だったけど、
…本当の話だ。
実際に彼女は恵になら比較的安全に呪力を送ることができる」
「…じゃあ、もう伏黒くんを彼女の術式として、二人セットで任務に着かせればいいんじゃないですか。彼女には自分を守る程度の体術やらを教えて。」
「それじゃあダメなんだ。呪力享受の方法が、”方法”なんだよ。」
「…?」
「かぐや姫は、魔性の女と言われているだろ?それは彼女の容姿のせいだと思ってた。」
夜の闇をそのまま切り取って梳かしたような、深く艶やかな漆黒の長髪。
雪のように白い、透き通るような肌は人間離れしていて丁寧に作られた精巧なガラス細工を思わせる。
感情の奥底を覗き込ませない大きな瞳は、月光を宿した夜空のように深く、感情の起伏で揺れる長いまつ毛は人の心をくすぐる。
遠慮がちな性格や、人を信じやすいそのあどけなさ全てが「守られなければ生きていけない儚い少女」そのものであるのに、その身から溢れ出る圧倒的な呪気の質が、彼女を異質な「神物」のように仕立て上げていた。
「でも、彼女が人を惹きつけるのは見た目だけじゃない。彼女から、微細な呪力が、常に溢れているんだ。…”すべて”の体液を媒介として。」
「……”すべての体液”って…」
「『すべて』だ。人間、話せば飛沫が飛ぶ。運動すれば汗が飛ぶ。その姿に目が離せなくなるのは、肌に触れれば術師が狂わされるのは、彼女の微量な体液に含まれる呪気が、術師の本能を絶え間なく刺激しているからなんだよ」
恐ろしい仮説だった。彼女がこれまで周囲を惑わせ、傷つけ、自分自身を呪ってきた原因のすべてが、その身体の構造そのものに起因しているというのだから。
「そんな恐ろしいこと…、事実なんですか」
「最初は彼女の涙からの仮説だった。けど、そう考えるのが、1番自然だと思う。」
京都の道場で自分のこの眼をみて涙したときからの仮説。
…僕が、僕の六眼の意味を見つけたときからの最悪な仮説は。
「じゃあ呪力享受の方法って…」