第6章 満月の夜
それは、ひどい風邪をひいて高熱を出した日だった。
病気によって身体の呪力バランスが酷く乱れた日に、満月が重なり、深夜体内が激しく疼き、死にそうなほどの熱と不快感にうなされた。
『…だれか、助けてよ…っ』
風邪をひいても、水だけは飲まなければ、と手探りで手を伸ばした時。
あの時、暗闇の中から現れたのは——お兄ちゃんだった。
『……かわいそうに。ごめんね、すぐ駆けつけてあげれなくて』
『おにいちゃ、』
傑は優しく香久夜を抱き上げ、口元に水を運んでやった。熱で上気した彼女の額に手を当てた。
そんな優しいお兄ちゃんに私は、無意識に、乾燥して切れた唇を、ーーー重ねたんだ。
『ん、…?』
多分、その時お兄ちゃんは、それが呪力の受け渡しだって、すぐに気づいたんだと思う。少しだけ驚いて、でもすぐに、熱を出した幼い子供をあやすように、口づけをした。
その小さなキスの触れ合いだけで、不思議と体内の荒れ狂う呪力が沈静化し、香久夜は救われたのだ。
「…?」
「あ、えっと、」
けれど——香久夜はその事実を、口には出さなかった。
「…ないです。こんな風になったのは、初めて、です」
香久夜は嘘をついた。俯き、目を伏せることで、五条から必死に動揺を隠した。