第6章 満月の夜
「あ、あの、自分でできます! 自分で拭きますから、」
五条が手絞りの温かいタオルを差し向けると、香久夜はパッと顔を赤くして身を引いた。自分が薄手のシャツ一枚で、しかもボタンが半分外れている状態であると思い出したからだ。
「いいから。怪我、してないかも見せて。」
あの寝室を見て、どんな激しいことがあったのか、容易に想像がついた。硝子が治癒したはずなのに、彼女の体はあざだらけで血がところどころついている。
五条は香久夜の言い分を聞き入れず、彼女の肩を優しく、けれど絶対に逃げられない力加減で固定した。
温かい蒸しタオルが、香久夜の汗ばんだ首筋や鎖骨にそっと当てられる。
じんわりとした温もりが肌を滑り、拭き上げられていく感触は本来なら気持ちがいいはずだった。
しかし、体内に「満月直前」の過剰な呪気を溜め込んでいる香久夜の皮膚は、過敏に反応していた。
(ひっ、 んん…、だめ、っ)
タオルの温かい生地が肌を擦るたび、背筋を電気のような甘い痺れが駆け抜ける。
「…ふっ、ん、」
息が上がりそうになるのを、香久夜は必死で押し殺した。唇をきゅっと噛み締め、呼吸を乱さないように耐える。
先生に自分の身体が変な反応をしているなんて知られたら、恥ずかしさで死んでしまう。
五条は淡々と、丁寧な手つきで香久夜の首から肩、そしてはだけた胸元へとタオルを滑らせていった。
香久夜が必死に息を殺し、爪が手に食い込むほど拳を握りしめて耐えているのを、五条はもちろん気づいていた。
だが、彼は気づかないふりを決め込み、どこまでも無頓着な「先生」として振る舞いながら、静かに尋問のような質問を投げかけた。
「……ねえ、、ちょっと教えてほしいんだけどさ」