第6章 満月の夜
やがて静かな部屋に、マグカップから立ち上るほんのり甘いミルクの香りが広がっていく。
「ほら、これ飲みな。少しは落ち着くから」
手渡された温かいマグカップを、香久夜は両手で包み込むようにして受け取り、温かいミルクを少しずつ口に含んでいく。冷え切っていた胃の奥がじんわりと温まるにつれ、緊張で引きつっていた体からすっと力が抜けていくのが分かった。
「…おいしいです」
「でしょ? 先生特製の蜂蜜入りホットミルク」
五条は向かいの椅子に腰掛け、じっと香久夜の表情を観察した。
香久夜はマグカップを見つめたまま、視線を泳がせ、何度も小さく唇を噛み締めていた。
(自覚的な恥じらい、か。それと、罪悪感)
言葉には出さないが、香久夜の胸を占めているのは激しい自責の念だった。
昨夜、正気を失っていたとはいえ、恵に本能のままにしがみつき、彼を酷く傷つけてしまったこと。恵を壊しかねない勢いで貪りついてしまったことへの、自分自身に対する深い拒絶と罪悪感。
五条はそれを全て察しながらも、あえて追及せず、フッと小さく鼻で笑った。
「変な顔すんなって。恵は丈夫だから、すぐ治るよ」
「あの、わたし、」
「言わなくていいよ、ほら、体、汚れてるから、じっとしてて」
五条は立ち上がると、洗面所から温かい濡れタオルを用意して戻ってきた。