第6章 満月の夜
「つ……っ!?」
倒れ込んだ俺の胸の上に、半裸の香久夜が覆いかぶさってくる。
服越しではない、熱を持った彼女の滑らかな肌が直接俺の胸元や首筋に触れた瞬間、頭の中で理性の糸がぶちりと切れる音がした。
「っ、駄目だ……落ち着け……!」
「んっ……はぁっ、きもち、っ」
香久夜は正気を失っていた。ただ本能のままに、自分の身体を焼き切ろうとする熱と呪気を逃がすため、俺の身体にしがみついてくる。
彼女の華奢な指先が俺のシャツの隙間から潜り込み、胸や背中の肌を焦燥に任せて撫で回す。その無防備でなまめかしい仕草に、俺の理性が狂いそうになる。
(……あ、駄目だ……これ、おかしい……っ)
次の瞬間、俺の首筋の『印』が狂ったように熱を帯び、ドクン、と大きく脈打った。
同時に、香久夜から放たれた呪力が印を通じて俺の脳内に流れ込んでくる。
その呪力は、あまりにも「甘かった」。
鼻腔をくすぐる、熟した花のような、甘く痺れる匂い。
視界が歪む。暗かったはずの部屋が、まるで桃色の霧に包まれたかのように明滅し始めた。
(幻覚……、の呪力が……俺の脳を侵食してるのか?)
視界の中で、香久夜の首筋や胸元に浮かび上がる【黒い印】が、まるで生き物のように蠢き、妖しい紫色の光を放っている。
それを見た瞬間、俺の頭の中から「傷ついた彼女を守る」という綺麗な名目が消え去った。代わりに湧き上がってきたのは、ドロドロとした醜く狂おしい「貪欲」だった。
目の前で熱に苦しみ、俺を求めて乱れる少女を、この手で完全に支配したい。俺の痕跡で塗り潰したい。
呪術の毒に侵され、俺は香久夜の細い腰を力任せに引き寄せると、貪るようにその身体を抱きしめた。