第6章 満月の夜
「狂い死ぬ…って」
硝子は缶コーヒーのタバコを灰皿に押し付け、どこか憐れむような、けれど冷酷な現実を告げる音色で呟いた。
恵の脳裏に浮かぶのは、京都に到着した際、車窓から見える古風な街並みや立ち並ぶ店々に目を輝かせていた香久夜の無邪気な顔だ。
天の羽衣という呪具に縛られず、いつか一人の女の子として当たり前に外の世界を歩けるかもしれない——そんなささやかな希望の兆しが見えた途端に叩きつけられた残酷な現実。
「彼女が『歩く特級呪物』なんて呼ばれず、自由に外の世界を歩くために手に入れた代償が……これってわけだ」
「……っ、そんな……」
恵が息を呑む。硝子は恵の肩を軽くぽんと叩いた。
「そういう体質になっちまったんだよ。……伏黒、お前は文字通り、この子の『命綱』になったってわけさ」
その横で、腕を組み壁に寄りかかっていた五条悟から、ピリピリとした不快な呪気が漏れ出していた。
目隠しで隠された表情からは普段のおちゃらけた気配など微塵もなく、苦々しく噛み締められた唇と、強張った顎のラインが彼の露骨な苛立ちを物語っている。
「……硝子。後処理と手当て、頼んだよ」
低い、地底から響くような声で五条が吐き捨てる。
自分の教え子が健気に望んだ小さな幸せすら踏みにじったやつらへの怒りが、五条の全身から隠しきれずに溢れ出ていた。
「僕はこれから、京都校のお偉いさん方と上層部の老いぼれどもに『ご挨拶』に行ってくるから」
「……先生、京都校の敷地を破壊したことや、あの呪詛師を殺害した件……に責任を問われるんじゃ……」
恵の懸念に、五条は鼻でくすりと笑った。だがその瞳に笑いは一切ない。
「心配いらないよ。死んだやつは高専の登録術師じゃない。外から紛れ込んだ無登録の『雇われ呪詛師』だ。京都校のセキュリティがザルだったせいで、僕の可愛い生徒が被害に遭い、防衛本能で呪力が暴走した……それが『公式の事実』だ。文句があるなら、僕が京都校の管理責任を叩き潰すまでさ」