第6章 満月の夜
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「……ここなら、上層部も禪院家も手出しはできないよ」
五条悟の「術式」によって一瞬で空間を飛翔し、連れてこられたのは高専の敷地内でも京都でもない、都心の一角にある五条家の厳重な結界に守られた隠れ家だった。
広いベッドに横たえられた香久夜は、恵の上着に包まれたまま、痛々に細い息を吐いている。服の破れから覗く肌には紫色の痛々しい打撲痕があり、重なり合わせた唇の傷からは、まだかすかに血の味が漂っていた。
傍らで香久夜の手を固く握りしめる恵の右腕と首筋には、黒く歪な【印】が、不気味に熱を帯びたまま定着していた。
そこへ、五条が手配した家入硝子が、缶コーヒーを片手に静かに室内へ入ってきた。
「……ひどい有様だね。目立った骨折や内臓破裂は反転術式で治せるけど、呪力構造まで私はいじれないよ?」
硝子は寝台の傍らに腰掛け、香久夜の額に手を当てながら煙草の煙をふうと吐き出した。そして不意に、恵の首筋へひんやりとした指先を伸ばした。
「……ねえ、君はこの印、いつから持ってんの?」
「っ……」
祥子は爪先で、恵の首筋に浮かび上がる不気味で艶やかな黒い刻印をちくりと撫でまわす。
熱を帯びた皮膚を弄ばれ、恵が身を竦めると、硝子はくすりと小さく笑って手を離した。
「……なるほどね。あの膨大な呪力を体内で自己完結させるなんて、随分と無茶なことを。当然いつかはキャパシティを超えて暴走。でもそれを止めたのが、お前との血の共有ってワケだね」
硝子の瞳が、再び恵の首筋と、眠る香久夜の傷ついた唇へと落ちる。
「あの印は、過剰すぎる香久夜の呪力を伏黒、お前が肩代わりして逃がすための『緊急用の管(パイプ)』だよ。香久夜の莫大な呪気は、放っておけば内側から彼女の脳と体を焼き切る。
……特に、バイオリズムが狂う『満月の夜』や、強い精神的ショックを受けた時、彼女は印の相手と肌や血を重ねて呪力を逃がさないと、狂い死にする」