第6章 満月の夜
「……。もう大丈夫だ」
荒い息を吐きながら、恵は上着を脱いで香久夜のボロボロの身体を包み込み、そっと腕の中に抱き上げた。
互いの血で濡れた唇の痺れと、過剰な呪力を受け止めた倦怠感が、恵の体力を酷く削っている。
だが、抱きしめた香久夜の体温が徐々に落ち着きを取り戻していくのを感じ、恵は安堵の息を漏らした。
そこへ、周囲の空間を切り裂くように五条が歩み寄ってくる。目隠しの奥の冷酷な殺気はすっかり潜められていたが、その眼差しには深い思慮が宿っていた。
「恵、よく耐えたね」
「……五条先生。の様子が……」
「うん、分かってる。ここでは目立ちすぎるし、京都の老いぼれどもや高専の医療室に連れて行けば、何されるか分かったもんじゃない。あと、恵も、すごいことになってるよ。」
そう言って五条は傷だらけな恵の肩と、恵の胸元でかろうじて息をつく香久夜の背中に優しく手を置いた。
「僕の隠れ家に移動するよ。あそこなら結界も完璧だし、誰の目も届かない。硝子ももう向かわせたからね」
「……家入さんも」
「と、恵もその傷、治してもらってきて」
五条は青い瞳をわずかに覗かせ、覚悟の決まった顔をする恵にフッと笑いかけた。
「うん、行こうか」
次の瞬間、無下限の術式が二人を包み込み、三人の姿は京都の惨状から一瞬にして掻き消えた。