第5章 暴走
「あ……う…んっ、恵……くん……どこ……」
地面で胸を押さえて苦しむ香久夜の口から、掠れた途切れ途切れの声が漏れる。
五感が狂い、暴走する過剰な呪力に苛まれながら、彼女の華奢な手が、空を泳ぐようにして必死に「誰か」を求めて伸びていた。
その手が助けを求めるたびに、恵の首筋の『印』が、肉を焼き切るような激痛とともに眩しく黒く光り輝く。
二人の魂が、狂おしいほど引き合っていた。
「……先生。俺が行きます」
恵が低く絞り出すように言った。五条は目隠しの奥から、恵の右腕に浮かび上がる『印』と、その眼差しに宿る不退転の覚悟を見つめた。
「……うん、頼んだよ。周囲の雑音は僕が押さえておくから。」
五条が軽く片手をかざすと、無下限の術式が拡大し、後方から追いつこうとしていた京都校の術師や大人たちの接近を完全にシャットアウトした。二人の世界を守るための、絶対的な大人の防壁。
「あの子を救えるのは……お前だ」
「……うす」
恵は一歩、足を踏み出した。
香久夜から放たれる「拒絶の呪い」の暴風が、恵の全身の皮膚を切り裂き、制服を切り刻んで血を吹き出させる。だが恵は顔色一つ変えず、ただまっすぐに、壊れそうな姫のもとへと突進した。
「……!! 俺だ……! 戻ってこい!!」
叫ぶと同時に、香久夜の華奢な身体を、血に濡れた己の腕で強く抱きしめた。