第5章 暴走
「——んぐっ!?」
男の汚い唇が、香久夜の過敏になった唇に強く押し当てられた——その瞬間。
『——ガァァァァッ!!!』
過剰な呪力が男に注ぎ込まれ、口内から、冷たく苛烈な神聖なる「呪い」が、津波のように体内へ直接なだれ込む。
「ギャアアアアアッ!? 熱い! 痛い! 口が、身体が……溶けるうぅぅっ!?」
男は自分の口を両手で押さえ、血反吐をぶちまけながら床でのたうち回った。目や耳から黒い血を吹き出し、ものの数秒で全身を黒く腐敗させて息絶えた。
「ひっ……!? な、なんだよこれ……」
「化け物が……ッ! よくも兄貴を殺したなこのクソ女ぁっ!!」
仲間の常軌を逸した死に様を目撃し、残り二人の男はパニックと恐怖で完全に理性を失った。
恐怖を塗りつぶすための過剰な攻撃性と逆上が、倒れている香久夜へと向けられる。
ドカッ! バキッ!
「がはっ……っ! いっ……!」
靴のまま、華奢な腹や背中を容赦なく踏み荒らされる。過敏になった全身に叩きつけられる衝撃と激痛は、香久夜の神経をズタズタに引き裂いた。
男が胸ぐらを掴んで顔を何度も殴る。
口が切れて、赤い血が綺麗に彼女の白い肌に伝った。
(……痛い……熱い………もう、いや………)
心と身体のキャパシティが、完全に限界を超える。
「……あ……あああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
香久夜の喉から、人間のものではない凄まじい叫びが放たれる。
ドゴォォォォンッ!!!!
香久夜の体内から、世界を破砕するほどの莫大な青黒い呪力の奔流が爆発した。体育館裏の物置小屋が一瞬で紙くずのように吹き飛び、暴行を加えていた男二人は絶叫する暇すらなく呪力の波に呑み込まれ、吹き飛ぶ。
黒く輝く呪力の竜巻が、京都校の空を突き破る。
その圧倒的な暴風の中心で、香久夜はその体の熱さに悶え苦しんでいた。