第5章 暴走
「ごちそうさまー! いやぁ、本当に最高の料理だったっす!」
三輪が満足そうにお腹を叩き、西宮も箒に腰掛けながら「京都校の美味しくない精進料理とは大違いね」と嬉しそうに微笑んでいた。
女子会の余韻が残る賑やかな食堂で、香久夜はみんなが笑顔で空のお皿を重ねていく光景を、胸の奥が温かくなるような思いで見つめていた。ご飯を誰かに振舞って、それを美味しく食べてもらう。そのことが嬉しくてたまらなかった。
その時、片付けをしていた三輪が「あれ?」と平積みされたお盆の脇を指差した。
「これ、余ってますけど……。あ、小鉢に分けた山菜の胡麻和えと、特製のお出汁だ」
「あ……」
香久夜が覗き込む。京都校の先生や大人たちの控え室へ届けるはずだったお料理が、ひとつだけぽつんと残されていたのだった。真依が呆れたように溜息をつく。
「もう、誰か持っていき忘れたのね。……まあいいんじゃない? 放置しておけば」
「ううん、私、届けてきます!」
香久夜が身を乗り出すようにして、小さなお盆を自分の両手で大切そうに抱え上げた。
「ハルちゃん、一人で大丈夫? 付いていこうか?」
「大丈夫です! 控え室の場所はさっき聞きましたし…美味しく食べてもらいたい、から」
「……もう、ハルちゃんは本当にお手伝い好きね。気をつけていってらっしゃい」
真依たちが優しく送り出してくれる。
お盆を抱え、香久夜は廊下へと歩き出した。三輪たちとお姉ちゃんのように仲良くなれた幸せ。自分も誰かの役に立てているという誇らしさ。軽やかな足取りで、暗い木造の廊下を進んでいく。
(美味しく食べてくれるといいな……。みんなみたいに、笑ってくれたら……)
そんな無垢な期待と温かい胸の高鳴りを抱えながら、香久夜は薄暗い教師控え室の扉の前へと辿り着いたのだった。