第5章 暴走
山菜の天ぷらがカラリと揚がり、特製の出汁巻き卵から甘い湯気が立ち上る。
出来上がった料理を男子たちにひと通り配り終えると、女子組は食堂の隅のテーブルにこっそり集まり、念願の「女子会」がスタートした。
「それにしても、男子たちのあの食い意地凄かったわね。特に東堂」
西宮がジュースのストローを突きながら呆れたように言う。三輪もウンウンと頷いた。
「東堂先輩、高田ちゃんの握手会前だからって気合入りすぎなんですよ。……あ、でも東堂先輩って、普段からめちゃくちゃ清潔にしてて良い匂いしません? 汗くさい運動部とは大違いっていうか」
「あー、分かる。悔しいけどあいつ、無駄に肌ツヤいいし香水もちゃんとしてるのよね」
真依がクスクス笑うと、料理を美味しそうに口へ運んでいた香久夜が、きょとんとした顔で会話に入ってきた。
「東堂くんの匂い、私も好きです!」
「好きとは言ってないのよ。」
「あ、すいません…でも私、思わず『抱きしめてほしい』って言っちゃいそうになるくらい、ほんとに大好きで…」
「「「……はい!??!?」」」
女子テーブルに激震が走った。
三輪は飲んでいたお茶を吹きかけ、西宮は箒から転げ落ちそうになり、真依は目を見開いて固まっている。
「ち、ちょっと待って!!? 『抱きしめてほしい』って言ったの!? 東堂に!?!?」
「え……? 言っ、言ってはいないです……! 思っただけで……っ」
香久夜が慌てて手を振る。山で一人で育った彼女にとって、人の温もりや良い匂いは「安心感」の象徴であり、抱きしめてほしいというのは純粋な甘えの欲求だった。
だが、年頃の女子高生たちにとってそれは完全な爆弾発言だ。
「良かったーーー! 言ってたら東堂、勘違いして『俺の存在しない記憶』生み出すところだったよ!!」