第5章 暴走
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トントン、トントン……と、厨房に心地よい包丁の音が響いていた。
「はい、お姉ちゃん。おネギ刻めました」
「おっ、ありが……って、誰がお姉ちゃんだ!」
香久夜が両手で大事そうにボウルを差し出すと、受け取ろうとした真依は思わず素で返し、ハッと我に返って顔を赤くした。
隣で山菜の泥を洗っていた三輪霞が「きゃあーっ! 真依ちゃんがお姉ちゃんって呼ばれて照れてる〜!」と嬉しそうに声をあげる。
「うるさいわね霞! ほら、あんたも変な呼び方しないの!」
「……え? でも、真依さんすごくお料理上手で、いろいろ教えてくれたから……カッコいいお姉ちゃんだなって……」
香久夜が上目遣いでぽつりと呟くと、真依は「うっ……」と胸を押さえて絶句した。
最初は「交流会の絡みづらいいとこの連れ」「歩く特級呪物」と警戒していたはずだった。
しかし、10歳で母を亡くしてから一人で生きてきたという香久夜の無垢すぎる瞳と、ぎこちなくも一生懸命に料理を手伝う健気さに、真依の毒気は完全に抜き取られてしまっていた。
「……たく、調子狂うわね。ほんと、可愛い後輩ができちゃったみたいで嬉しいわよ……」
真依がボソッと本音を漏らすと、三輪が「本当ですよ〜!」と香久夜の肩を後ろからぎゅっと抱きしめた。
「私、ずっと後輩が欲しかったんです! 香久夜ちゃん、本当にかわいくて撫で回したくなっちゃう! 高専の殺伐とした空気に毒されてなくて、天使みたい……!」
「三輪さん……! えへへ、私もお姉ちゃんができたみたいで、すごく嬉しいです……っ」
西宮桃も箒に腰掛けながら、ほうと溜息をついた。
「伏黒や五条先生が過保護になる理由、すっごく分かったわ。この子、目を離したらどっかの悪い大人に拐われそうだもん。京都校に来なよ、私たちが全力で可愛がってあげるから」