第5章 暴走
歪な三角関係の重圧が道場の空気を押し潰しそうになっていた——その時。
『ぐうぅぅぅ〜〜〜っ!!!』
道場全体を揺らすような、あまりにも豪快な腹の音が鳴り響いた。
「……む」
腕を組み、仁王立ちで二人を眺めていた東堂葵が、自分の巨大なお腹をぽんっと叩いた。
「いかん!午前の訓練ですでに我が丹田が悲鳴を上げているようだ」
「……はあ」
あまりにも空気を読まない発言に、五条の手が香久夜の首筋からパッと離れる。
五条はいつもの軽い調子で目隠しを直し、やれやれと肩をすくめた。
「もう、東堂くんたらムードってものを勉強しなよ〜。せっかくの綺麗な呪力を愛でてたのに」
「フン、乙女の心覚めぬ男にムードなど不要! それより五条悟、約束の昼飯はどうなっている! 腹が減っては高田ちゃんのソウルを感じ取れん!」
「たか…なに?昼飯は、そういえば京都校の厨房、今日はお休みだってほうきの子が言ってたっけ」
ほうきの子と呼んだ五條に「西宮さん、です」と香久夜が訂正を入れる。あぁ、そう、と二人が会話する横でずっと壁際で息を殺していた恵が、重い足を前に踏み出した。
「……昼飯がないって、どういうことですか。俺たち、買い出しもしてませんよ」
「だから言ったろ? 交流会の前日は、各校で自炊するか買いに行くのが京都のしきたり〜ってね」
五条はひらひらと手を振ると、香久夜の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「さて、どうしようか? 外に食べに行くのもいいけど、、お腹空いてない?」
「……あ、あの……」
香久夜は、まだ少し残る身体の火照りを隠すように胸元をぎゅっと握りしめながら、おずおずと口を開いた。
「私、山にいたとき、山菜とか、簡単なご飯なら作ってました。もし材料があるなら……私、作ります…っ」
「おお! かぐや姫の手料理か! 素晴らしい!」
東堂がバンと自分の胸を叩く。
こうして、道場の閉塞的な熱気は一気に吹き飛び、三人プラス東堂は、京都校の広い厨房へと向かうことになったのだった。