❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
「だ、大丈夫なのでご心配なく…!三人ともゆっくり温まって来てね…!」
言うや否や、脱衣所から逃げるように立ち去ってしまった妻の姿に、光秀が肩を揺らしてくつくつと楽しげに笑う。自分の着流しの帯へ手をかけた光臣が父を見上げた。
「相変わらず母上をいじめられるのがお好きなようで」
「何年経っても飽きない、俺の趣味のひとつだからな」
「ちちうえ、ははうえいじめちゃめっ、だよ」
「善処はするとしよう」
「この言い方では、改める気はなさそうですね」
そんな会話が父と息子二人の間で交わされているなど露とも知らず、凪は閉め切った脱衣所に繋がる扉に背を預け、赤く染まった頬を両手で包んでいた。
(やっぱり何年経っても光秀さんのあの色気には慣れる気がしないよ……!しかも子供達の前なのに……恥ずかしいっ)
むしろ十年余り経って更に倍増した気がしなくもない夫の、それこそ底の無い色香に高鳴る心臓を持て余し、凪は火照った頬をそのままにして三人の着替えを用意するべく、寝室の方へと向かったのだった。
脱衣所に光秀と子供達の寝間着などを用意した後、凪は四人で使ったとしても広すぎる室内をぐるりと見回した。バスルームからは幼子がはしゃぐ声が聞こえて来ており、それに光臣が巻き込まれているような雰囲気が感じ取れてつい笑みを零してしまった程だ。泡風呂など体験した事のない息子二人が喜んでいる様が目に浮かぶ。
(泡風呂かあ、久々だし私も楽しみだな)
日中、ルームツアーした折に見かけた巨大ジャグジーは一人で使用するには贅沢過ぎる広さと機能だ。アメニティのボタニカルなボディオイルなどを使う機会も乱世ではそうそうない為、凪自身の気持ちも浮足立つ。湯浴み上がりに冷たい飲み物を出してあげようと、備え付けの冷蔵庫を開けると、中に濃縮還元の林檎ジュースのペットボトルが四本入っているのを見つけた。甘酒以外に甘い飲み物など体験した事の無い息子達にそれを飲ませてあげようと考える傍ら、彼女は一人首を捻る。