❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
鯛は乱世でも大阪などで刺し身として食べられるが、捌き方などによってその旨味も変わって来る。機会があれば挑戦してみようなどと考えていると、正面ではわさびをつけた光秀が中トロ握りを食べているところであった。
「どうですか?あまり向こうでは食べられない部位かなって思うんですけど」
「魚と米だな。柔らかくてちょうどいい」
「鮪の中トロって言うんですけど、脂が赤身より多くて食べやすいかなって。気に入ってもらえたなら良かったです」
「まぐろですか……?聞いた事のない魚ですね」
「向こうだとあまり食べないんだっけ……臣くんも好きだと思うよ。これ、食べてみて」
光秀のいつもながらの感想はもはや慣れたものだ。光秀なりに精一杯伝えようとしてくれていると分かる為、凪も深くは突っ込まない。とはいえ程よく口の中でほろほろと解れるシャリの握り具合も、ネタの柔らかさも光秀好みのものである事は間違いないようだ。不思議そうな光臣へ凪が声をかけると、光秀に取ってあげたものと同じ皿を渡してやる。母に甲斐甲斐しくされている兄を正面で見やり、つぶつぶとしたいくらを手に持っていた光鴇がむっと不服そうに眉根を寄せた。
「ときのつぶつぶも、つぶつぶしてるよ…!」
「ああ、そうだな。丸くて小さい辺りがお前によく似ている」
「じゃあつぶつぶ、ときのあげるね」
「いくら一粒ずつって逆に器用だね、鴇くん……」
自分に注目して欲しい光鴇が必死に自己主張すると、光秀が微かに笑みを浮かべて視線を向けた。赤い艶々のいくらの粒を見てその小ささが幼子に通じるものがあると光秀が告げると、光鴇が嬉しそうにそれを父へと差し出す。鮮度の高いいくらは口内でぷつりと弾け、独特の風味を伝えて来る。いくらが気に入ったらしい幼子が機嫌良くそれを食べていると、凪が流れて来た皿を取った。
「光秀さん次はこれどうぞ、ヒラメです。あとこっちは蟹ですよ」
「…!?かにさん……?たべれるの?」
「うん、美味しいよ。鴇くんも食べる?」
「たべる!」
「この赤いのですよね。俺が取ります」
「ありがとう、臣くん。せっかくだから臣くんも」