❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
光臣は玉子握りが気に入ったらしく、同じものを取っている。
「これが欲しかったんだろう?」
「…!ちちうえ、ときのほしいのわかったの、すごい!」
「お前の父だからな」
幼子が向けていた視線の先を読んだらしい光秀が、艷やかないくらがたっぷりと乗ったいくら軍艦の皿を幼子の前に置いてやる。何も言わずとも皿を取ってくれた父へと振り返り、嬉しそうに笑う子供の頭を撫でてやりながら、もう一枚の皿を凪の前へと置いた。湯霜づくりされた真鯛の握りの皿を目にして、彼女が眸を瞬かせる。
「美味しそうな真鯛ですね!というかどうして真鯛なんですか?」
「おや、好いていたと思ったが違ったか」
「す、好きですけど……もしかして随分昔の事、まだネタにしてます?」
「まさか、単なる好意だ。まずはお前もお食べ」
「ありがとうございます。あ、臣くんちょっとごめんね」
かれこれ十年余り前、堺で家康や光忠、佐助を交えて食事処で一緒に昼餉を食べた事を思い出す。あの時はわざと全員から鯛の刺し身を差し出され、とんでもなく恥ずかしい思いをしたものだ。懐かしさについ面持ちを綻ばせた凪が、ふとレーンに流れて来た皿を取って光秀の前へと置く。程よく脂の乗ったまぐろの中トロは、柔らかくて噛む回数も少なく済むだろうと凪が光秀の為に選んだものだ。
「光秀さん、わさびつけます?」
「ああ」
「わさび、おいしい?ときもつける」
「お子様なお前には辛いと思うがな」
「……からいの、ないない」
「賢明な判断だ」
回っている寿司はすべてさび抜きの為、わさびは別乗せだ。わさびの容器から備え付けのスプーンで適量をすくって光秀の皿に置いてやれば、光鴇が興味を示していくら軍艦片手に覗き込んで来た。光秀がくすりと笑って告げると、辛いと聞いた幼子が渋い顔をして首を振る。凪自身も軽くわさびを乗せ、醤油をつけて早速光秀が取ってくれた真鯛の握りをいただいた。
(淡白だけど旨味がしっかりしてて美味しい……!湯霜づくりかあ、今度やってみようかなあ)