❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
小皿を人数分取った後でそこに醤油を入れ、凪がそれぞれの前に置いた。おしぼりや箸も同じく人数分渡せば、光秀が袋を開けて幼子に畳み直したお手拭きを渡してやる。
「まずはこれで手を清める事だ」
「おてて、ふく」
光秀から受け取ったもので手を拭いた後、ぐしゃりとしたおしぼりを光鴇から戻され、父が甲斐甲斐しくも綺麗に畳んで端へと置いてやった。次いで袖が邪魔にならぬよう、光秀が袂から短めの襷(たすき)を取り出すと、光鴇へ声をかける。
「鴇、こっちを向いてみろ。袖を醤油まみれにさせる訳にはいかない」
「臣くんは大丈夫だよね?」
「袖を押さえればいいだけなので平気ですよ」
既にあちこちへと興味津々な光鴇が着流しの袖を汚す可能性を考慮してか、羽織を脱がせた光秀が幼子の袖を襷で上げてやった。凪が一応確認するよう隣の光臣へ問いかけると、少年は笑みを浮かべて首を緩く振って見せる。
(かっぱ巻きはともかく、握り寿司の場合はネタの方にお醤油つけてあげないと、しゃり崩しそうだなあ。手も綺麗にしたし、お箸じゃなくてもいっか)
「鴇くん、お寿司はお手々で食べていいからね。お醤油ちょんってつけて食べてみて」
「あまりつけすぎると塩辛くなるから気を付ける事だ」
「わかった、ちょんってするね」
手で食べていいと母から言われ、早速かっぱ巻きを光鴇がひとつ摘む。醤油が入った小皿へそれを恐恐近付けると、そのまま一気に一口で頬張った。
「思いきりの良い食いつきだな」
「米の周りに巻かれている黒いものはなんですか……?」
「あれは海苔だよ。あ、ほら臣くんの好きな玉子流れてる」
頬を目一杯膨らませながらぽりぽりとかっぱ巻きを食べている幼子の正面で、光臣が目を瞬かせる。乱世で海苔は実に貴重な食物であり、海沿いに面する地域でしか滅多に食べる事が出来ない。特に乾燥海苔はあまり出回らない貴重なものなのだ。少年の疑問を解消した凪がふと視線をレーンへ向ける。そこでちょうど玉子握りが流れている様を見かけて声をかけた。