❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
多勢に無勢な状況に勝算を見出している男達が笑う様を眺め、凪が呆れ半分同情半分な眼差しを向ける。
(君達が今喧嘩吹っかけてる相手、日本人なら誰でも知ってる超有名武将本人だって知ったらどう思うんだろ……)
ある意味それはそれで大変貴重な体験かもしれないが。うっかり喧嘩を吹っかけた相手が、あの明智光秀だとも知らずにジムで身体を鍛えているらしい大学生達が余裕な様で笑った。鍛える、の意味がそもそも異なる次元である事に、悲しいかな気付けない男達へ憐憫(れんびん)を向けると、凪へ一番よく絡んで来ていた男が拳をぱきぱきと鳴らし始める。
「その澄ました面、女の前で思いきり歪ませてやるよ」
「怖や怖や……こうも人目がある中で諍いを起こそうとは、中々真似出来ない行いだな」
「人前だからこそ盛大に恥かかせられんだろうが…!」
明らかに人を食った態度で光秀が肩をゆるりと竦める。凪を自身の背へと庇う為に一歩前へ出たと同時、男が光秀に向かって殴りかかった。真っ向からの右ストレートを繰り出して来る相手のそれを軽々見切り、僅かに顔を逸らすだけで躱した光秀が、掌で容易く右腕を払いのける。ぱしん、と乾いた音が響いたと同時、今度は左拳を腹部目掛けて繰り出すも、反対の手であっさりと受け止められた。
「っ……!!?」
「手を出したのはこちらだと貴兄は言ったが、生憎と俺は妻に触れようとした不埒な輩の手を掴んだに過ぎない。だが、今貴兄が行っているこれは明らかな暴力だろう」
「だったら何だってんだよっ…!?」
左拳を掌で掴まれた状態で男が息を呑む。笑みも浮かべず、ただ淡々とした表情で一段低めた声色のまま男を諭すように告げ、光秀が相手の鼓膜を震わせた。周囲に居た観光客達は突如起こった諍いに驚いた様子を見せ、些か遠巻きに状況を見守っている。下手をすれば野次馬の誰かに通報されかねないと、凪がそわそわ心配そうな表情を浮かべる中、光秀が僅かに身を近付けて相手の耳元で低く囁いた。
「ならば、逆に何をされても文句は言えないな」