❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
心底面倒くさそうな雰囲気を隠しもせず、凪が断りの文句を述べる。けれども旅行で気が大きくなっているのか、あるいはただの鈍感なのかめげない男が更に食い下がった。適当にあしらう、とは決めたものの、あまりのしつこさに辟易した彼女が苛立ちを露わに声を上げると同時、それを遮るかの如く男の一人が凪の手首を掴もうとした。
「貴兄等、誰の女に手を出そうとしている」
「痛ぇ……!!」
けれども男の手が彼女に届く事はなく、割り入って来た潤いを帯びた低音と片手によって遮られる。果たしていつの間にやって来たのか、例の如く気配を消して近付いたのだろう光秀が凪に触れようとした男の片手首を軽く掴んでいた。
「光秀さん……!」
「遅くなって済まないな、凪。何もされていないか?」
「はい、大丈夫です。声をかけられたくらいなので……」
「そうか」
傍にやって来た光秀へ、安堵の面持ちを浮かべた凪が男の名を呼ぶ。絡んで来たナンパ男の片手首をぱっと離して彼女の方へと視線を向け、無事を確認した光秀が面持ちを僅かに綻ばせた。突如やって来た長身和装の美形に若干気圧された大学生達がしかし、恥をかかされた気になり気色(けしき)ばむ。凪の腰に片手を添え、自身の方へとそっと引き寄せた光秀が、注がれる険呑な眼差しに顔を振り向かせた。
「目の付け所は悪くないとはいえ、この娘は俺の妻でな。他を当たってもらおう」
「ちっ、人妻かよ……ふざけやがって。つーか先に手、出して来たのはそっちだろ。何されても文句は言えねえよなあ?」
「相手は一人だしな、やっちまうか?」
「おいおい、こっちは毎日ジム通って鍛えてるんだぜ。一人伸すなんざ簡単過ぎだろ」
淡々とした抑揚の無い調子で光秀が言い切ると、男達があからさまに態度を変えて舌打ちを響かせる。もはやナンパの成果が得られなかった事より、男としての自尊心を傷つけられた事の方へ業を煮やしているらしく、不穏な雰囲気を滲ませた。