❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
京都内にある動物園である為、まったく和服の人が居ないかと言えばそんな事も無いかもしれないが、せっかくなら五百年後の衣服を着た子供達や、光秀とも過ごしてみたい。ついでに自分も久々にこちらの洋服に袖を通したい、という思いから口にしたのだが、実はそれは単なる建前だ。本当は別にやりたい事があるのだが、それは出来るだけ直前まで内緒にしておきたい。
「光秀さん、駄目ですか……?」
「俺は構わないが……まあ今はそういう事にしておいてやるとしよう」
光秀を見上げて首を傾げると、片手を伸ばした男が指先を彼女の頬を軽く撫でやる。何処となく含みのある調子で告げた後、僅かに声を潜めて彼女にだけ聞こえる声で付け足した。
「え゛」
ひくり、と片頬を引きつらせた凪が硬く短い声を漏らした。何もかもお見通しだと言わんばかりの男が、金色の眸を僅かに眇めて口角を持ち上げる。頬を撫でていた指先でふにっと柔らかなそこを優しく摘んだ。
「夫に隠し事とは悪い妻だ。後でたっぷりお仕置きするとしよう」
「そ、そんな事してないですよ……!」
(本当はしてるけど!さすが光秀さん、誤魔化しが一切利かない……)
恐らく考えあっての事と察しているのだろう、ここでは敢えて深く問う気のないらしい男がしかし、しっかりお仕置き宣言をして笑みを深める。内心冷や汗を流しながら、凪がそっと明後日の方向へ視線を逸らした。そうして誤魔化しも兼ねて室内に設置されているモダンなデザインのデジタル時計を確認すると、パンフレットをローテーブルの上に置いて立ち上がる。
「そ、そろそろ出掛けましょう!体験教室の午前の部、受付が終わっちゃいますよ…!」
「わーい!おでかけ、たのしみ!」
「やれやれ、逃げられたか」
「元々最初から本気ではなかったのでしょう?父上も人が悪いですね」
「さて、それはどうだろうな」
話を切り替えるような凪のそれに、光秀が可笑しそうな様子でくすくすと笑いを零した。幼子が出掛ける気満々ではしゃぐ中、光臣が眉尻を下げながら父を見上げる。さらりと冗談めかして言ってのけた男がソファーから立ち上がった。そうして四人は早速光臣希望の硝子細工造り体験&硝子細工展へと向かう為、ホテルを後にしたのだった。