❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
エレベーターに乗った際の妙な浮遊感に驚いていた光臣は、乗っている間に上の階へ移動した事が不思議でならないのか、信じ難いと言わんばかりに景色を見下ろしていた。
「とき、したみるの、こわい」
そんな中、興味はあるが恐怖心が勝ってソファーの影から出られないでいる光鴇がぽつりと零す。高所が苦手という訳ではないだろうが、硝子張りの壁がすり抜けそうに見えて恐ろしいのか、眉尻を下げて口をへの字に曲げていた。
「鴇、大丈夫だ。びーどろのようなものが壁になっているから、落ちたりはしない。こっちに来て見てみるといい。じどうしゃや人が小さく見えるぞ」
「……みたい、でもこわい」
兄が安心させるよう誘いをかけてみるものの、幼子はどうにも一歩を踏み出す事が出来ない。その様子を見た光秀が身を翻し、ソファーの背凭れの影に半分程身を隠す光鴇を軽々と抱き上げた。
「おいで、俺と一緒なら問題ないだろう」
「おちない?」
「ああ」
抱き上げた拍子に小さな足からぽとりとスリッパが脱げ落ちる。片腕に幼子を乗せるような体勢にすると、光鴇が父の羽織の衿をきゅっと握った。そうして窓際に近付けば、恐恐とした様子で広がる景色に目を向ける。
「すごい!けーじにかたぐるまされるよりたかい!」
「さすがの傾奇者も、びるとやらには勝ちを譲る他ないだろうからな」
「でも本当に凄いですね……こんなに高い建築物を作り上げるだなんて」
「信長様がいらしたら、職人や絡繰りごと安土や大阪へ囲い込みそうだ」
「ふふ、確かに」
夏から初秋へ移り変わる季節を思わせる色合いが街や山に見られる見事な景観の中で、一部建物を工事している様が目に入った。クレーン車で鉄材を吊り上げている様を認めて光秀が冗談めかした調子で零すと、光臣が可笑しそうに同意を示す。すっかり恐怖など薄れてしまった光鴇もはしゃいだ様子で窓の外を眺めており、親子三人が並んで景色を眺めている様を更に後ろから見ていた凪が、微笑ましそうに面持ちを綻ばせた。