❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
「金の事ならば心配要らない。以前こちらへやって来た折に工面したものが残っていてな。お前が今頭を悩ませている宿に半年は泊まれるだけの用意はある」
「は、半年……!!?」
思いも寄らぬ男の発言に、凪が双眸を思い切り丸くする。光秀が元々用意の良い男だとは分かりきっていたが、まさかそこまでとは。果たして一体それだけの大金をどう持ち歩いているのかも謎だが、乱世でも何処からともなくさらりと金子(きんす)を出すような男だ。現金を隠し持っていても違和感はない。そもそも心配する次元が幾つも異なっていた事に今更気付かされ、すべてが杞憂で流されてしまうと、光秀がいつもと変わらぬ調子で悠然と言ってのけた。
「そういう事だ。余計な心配はせず、好きな宿を選べばいい」
「わ、分かりました……その、光秀さんの生まれ日お祝いも兼ねての旅行なのにすみません……」
資金はまったく気にしなくていいと告げる男に対し、凪が驚きの後にやって来た申し訳なさに眉尻を下げた。そもそもこの家族旅行は光秀の誕生日祝いを兼ねてのものだ。勘定を譲らないとは言っても、すべて光秀自身に支払いをさせるのは何だか申し訳ない気がする。そんな意味も含めて彼女が肩を落とすと、笑みを乗せた口元へ色気を滲ませ、光秀が片手を再度伸ばした。彼女の顎に指先をかけ、くいと軽く上へ向かせた後で真っ直ぐに黒々した眸を見つめる。
「夫として妻や子らに不自由をさせないのは当然の事だ。何より、こうして共に過ごしているだけで祝いというには十分過ぎる」
「うう…光秀さん、旦那さんとしてもお父さんとしても完璧過ぎです……」
「お褒めに預かり光栄だ」
鼓膜を打った言葉に胸の奥がきゅん、と高鳴りを帯びた。頬がじわじわ熱くなるのを自覚して視線を所在なくスマホのディスプレイに投げる。湧き上がる愛しさを吐き出さずにはいられなくて、ついつい本音をぽつりと吐露すれば、光秀が何処か可笑しそうに、けれども嬉しそうに肩を小さく揺らして笑った。
(もう、そうやって私が気にしないような言葉回しするところ、優しくてずるい。……でもそういうところも凄く好き)