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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



言葉とは裏腹に決して嫌そうな素振りではない相手へ笑みを零すと、彼女がフォークを光秀へ近付けた。

「ちちうえ、ははうえにあーんしてもらってる。ずるい!」
「いつもの事だろ。ほら鴇、お前の好きなきなこ餅だ。食べるか?」
「たべる!あむっ…!」

父母のやり取りを目にし、ロール状のクッキーを手でつまんで食べていた幼子がむっと眉根を寄せた。果たして食べたいのか食べさせたいのか分からないが、光臣が仲睦まじい二人の水を差さぬよう気遣い、きなこと黒蜜がかかった白玉団子をスプーンですくって差し出してやる。そうすればすぐに意識が好物に向かい、ぱくりと嬉しそうに光鴇がそれを食べた。代わりに手にしているクッキーを兄に差し出すと、光臣がさくりと一口齧る。そんな微笑ましい兄弟のやり取りの横で、凪から未知の甘味を食べた光秀が、それを咀嚼した。

様々な食感が混ざり合ったそれは中のクリームが少し冷たく、けれど生地が仄かに暖かい所為で程よい。じんわりと溶けて行くそれは甘く、如何にも凪が好みそうな味わいであるという事だけがよく伝わって来た。

「悪くないな。お前に似て際限なく甘い」
「それって褒めてます?」
「当然だろう」

光秀が零した感想に彼女が軽く首を傾げれば、男が瞼を伏せて肯定する。笑みを浮かべた凪が満足げに笑うと、カトラリーを置いて傍にある抹茶の茶碗を手にした。ほんのり甘い後味のクリーミーな抹茶はサービスだというのにとても美味しい。抹茶独特の仄かな苦味が甘味との塩梅を程良く保ってくれているように感じられた。はあ、と微かな吐息をひとつ零した凪を見て、光秀が穏やかな声をかける。

「どうした、安土から京までの道すがらで疲れたか?」
「いえ、それは全然平気です。そうじゃなくて…何かお抹茶頂いたら、光秀さんが点ててくれるお茶が恋しくなっちゃいました」

気遣いの窺える優しいそれに顔を上げ、両手で茶碗を持った凪が緩く首を振る。店の抹茶も十分美味しいが、やはり光秀が点ててくれた茶が一番美味しい。

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