❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
「明日は朝早くに出発するんですよね。じゃあ今晩は早めに子供達寝かさないと」
近頃は天候も荒れていない為、悪路という訳ではないだろうが、万が一を考慮して明日は早朝に安土を発つ。心なしか弾んだ調子の声色を耳にし、光秀がふとくすりと小さく笑みを零した。
「楽しそうだな、凪」
「だ、だって……」
(皆で五百年後に旅行なんて滅多に出来る経験じゃないし、光秀さんの誕生日も思い出に残るようなものにしたいし……でも確かに子供達より私が一番はしゃいでるかも…?大人気なかったかな、恥ずかしい……)
揶揄というよりは微笑ましさの方が勝る物言いに、凪の耳朶がほんのりと紅く染まる。言葉尻が消えて唇を噤んだ彼女の頬へと男が片手を添え、自身の方に振り向かせた。すぐ間近に、出会った頃と変わらぬ色気や美しさが際立つ端正な男の顔が映り込む。祝言を挙げる前より更に蕩けるような甘さを孕んだ黄金色の眸が眇められた。
「お前の喜ぶ姿を見る事が俺にとっての幸いだ。その表情を見るだけで、ここ数日の疲労など一息に吹き飛んでしまう程に」
「……でも、ちょっと子供っぽいかなって。もう私、二人の子供のお母さんなのに」
「例え二人の子の母になろうと、俺にとってお前は永遠に愛らしい妻のままだ」
鼓膜を揺さぶる甘やかなそれには、どれだけの月日を重ねても慣れる事などない。光秀に囁かれれば胸の奥が甘く疼き、どうしようもない程の幸福感に包まれる。視線が交わり、頬へ片手を添えられたままで唇が重なった。ちゅ、と愛らしい小さな音が奏でられて、思わずどちらからともなく笑い合う。
(光秀さんは祝言を挙げて二人の子供を産んでも、恋仲の時とずっと変わらず優しくて甘いままだな……嬉しい)
母でもあり女でもあるこの身を誰よりも愛し尊んでくれる最愛の夫へ労いを込め、今度は凪から口付けを贈る。触れるだけの浅いそれを受けた男が、すぐにまた唇を触れ合わせて来た。彼女の唇の表面を舌先で誘うように舐めた後、珍しく光秀が浅い吐息を零す。