❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
「何だか秀吉さんらしいですね。非番の件、一番に賛成してくれたのも秀吉さんだって聞きましたよ」
「自分の手もさして空いていないというのに、まったく難儀な性格の男だ」
光秀とは犬猿の仲などと言われている秀吉だが、こういった事へ真っ先に声を上げて気遣ってくれるというのは以前からずっと変わらない。ここ暫く、まとまった非番を取るにあたっての激務続きで、光秀と凪や子供達とすれ違い生活が続いていた事を案じてくれていたのだろう。些か憮然とした調子で告げた男がしかし、ふと吐息を零した。そうして、凪を抱きしめる両腕へそっと力を込める。
「……だが、今回ばかりは素直に感謝するとしよう。こうしてお前達の元へ早々に帰って来れたのだからな」
「はい……協力してくれた皆へ、御礼としてお土産とかいっぱい買って来ましょうね」
「ああ、そうするとしよう」
すれ違いの生活に堪えていたのは何も凪達だけではない。光秀もまた、家族とゆっくり過ごせない事をもどかしく思っていた。それが言葉の端々から伝わって来て、凪が嬉しそうに微笑む。自身を抱きしめる腕へ両手を添え、白い着物の袖をそっと握った。
「そうだ、支度は臣くんが手伝ってくれて、全部済んでるので安心してくださいね。今晩はゆっくり休んでください」
「ありがとう。すべてお前達に任せきりで済まないな」
「光秀さんはお仕事で忙しかったんだから、気にする事無いですよ」
背後から抱きしめられた状態で凪が笑いかけると、何処となく神妙な表情で光秀が告げる。公務の引き継ぎや各方面の指示で多忙を極めていたという事もあり、現代旅行に関する支度は一切凪達へ任せきりであったのを気にしているのだろう。安心させるよう緩く首を振った凪の言葉へ、光秀が口元を綻ばせる。再度柔らかな頬へ口付けを落とし、彼女の項(うなじ)付近から漂う甘やかな香りを堪能した。