❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
父によく似た笑みを浮かべ、少年が立ち上がった。そうして一度部屋を出て行った光臣を見送り、凪は周囲に広げていた衣服や手拭いなどの類いを畳んで箪笥に仕舞うという作業に戻る。入り口にあたる襖へ背を向けた体勢のまま、凪が今回の旅行には不要だと判断した着物や帯をまとめていると、背後で襖が開かれる音がした。
(あ、臣くんもう厨から戻って来たんだ)
光鴇であれば勢いよく襖をすぱん!と開け放つ事が多い為、そうなると選択肢は極端に絞られる。先程厨へ茶を煎れに行ってくれた長男が戻って来たのだと思った凪が、振り向かないままに声をかけた。
「おかえり、臣くん。戻ってくるの早かった……─────」
「おやおや、夫と息子を間違えるとはつれない妻だ」
すべてを言い切る前に、耳に慣れた甘くしっとりとした低音が鼓膜を打つ。どきりと鼓動を跳ねさせた凪の身体を、後方から嗅ぎ慣れた薫物の香りが包み込んだ。
「…!光秀さん……!?」
正座している状態の凪を、片膝をつきながら屈み、両腕を伸ばした光秀が背後から抱きしめ閉じ込める。早めに帰れそうだという言伝こそ貰ってはいたが、まさかここまで早いとは予想だにせず驚きに目を丸くした。軽く振り返って男の顔を見た凪の頬へ唇を寄せ、光秀が低く甘い声で囁きを零す。
「ああ、今帰った」
「おかえりなさい…!臣くんから話は聞いてましたけど、暮六つは過ぎるかなって思ってました」
「何処かのお人好しが早く帰れと捲し立てて小煩かったものでな。不在の間、支障の無い程度まで片付け、切り上げて来たという訳だ」
愛しい夫の帰宅へ素直に喜んだ凪が笑顔を浮かべる。祝言を挙げて既に十年と少し経っているにも関わらず、変わらぬ愛らしさを持つ妻を眩しそうに見つめた光秀が、彼女を抱きしめた状態で体勢を軽く変え、畳へ座り直した。背後から抱き寄せる形で凪を引き寄せ、暖かなぬくもりを堪能する。予想外にも早く帰宅する事となった理由を述べれば、彼女が少し可笑しそうにくすくすと笑いを零した。