第2章 柱
「なら急いで準備すんぞ。動きやすい着物持ってんならそれに着替えて来い」
「……襦袢が1番動きやすい着物です!」
自信満々に答える風音に実弥はガクリと肩を落とし、危うくあと一歩で崩れ落ちそうになってしまった。
何故こうも襦袢を信用しているのか……襦袢のみを身に纏った年頃の少女を伴い歩く自分の身にもなってほしいだろう。
「お前なァ!それ本気で言ってんのかァ?!どう見たって襦袢しか着てねぇ女連れてたら俺が不審者だろォ!てめぇの貞操観念はどうなってやがる……クソが。もういい、汚れても問題ねぇ着物来てこい。早足で向かうぞ」
一方叱られてしまった風音の涙は驚きからすっかり引っ込み、体を跳ねさせ弾かれたように実弥から離れた。
「ご、ごめんなさい!すぐに着替えてきます!」
そう言って玄関へと向かって行き屋敷内へ飛び込んだものの、ひょこっと顔を出して呆れ頭を抱える実弥に一言。
「置いていかないでね?」
「……んな事言ってる暇あんならさっさと着替えに行けェ!いつまでも油売ってんなら置いてくぞォ!」
目を血走らせ額に血管を浮き上がらせながら怒鳴る実弥に恐怖をあらわにするどころか、風音は安堵したようにホッと息を零して頷くと今度こそ着替えるために屋敷内へと姿を消していった。
それを確認した実弥は大きな溜め息をついた後に縁側へと腰を下ろし、不思議と警戒心を全く見せない風音について考えを巡らせる。
「アイツの母ちゃんの変な力って何だァ?変な力に鬼みてぇな見た目って村の奴ら言ってたが……剣士でもない鬼でもない人間が変な力なんて持ち得るのかァ?」
巡らせていたのは村の中で男が風音に向かって投げつけた言葉について。
男の言葉に戸惑いを見せていなかったことを考えると、母親の変な力について風音は知っているということだろう。
「父ちゃんが鬼殺隊剣士、母ちゃんは何かしらの力を持つ薬師ってどんだけ特殊な女だよ……はァ、ま、そのうち聞きゃあ問題ねぇかァ」
そう呟いて立ち上がって伸びをすると、自分も準備を整えるために玄関へと足を向けた。